2018年05月24日

小山田浩子著『庭』(2018年)

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不思議な魅力を放つ短編集だ。読み進めているうちに、ふと気が付くと異界をさまよっているような気がする。2014年に芥川賞を受賞した小山田浩子さんの新著「」。ここ数年で発表された「うらぎゅう」「名犬」など15編が詰まっている。

どの作品も、淡々とした、でも濃密に描写された日常が描かれているようで、ふと気づくとその日常がよじれていて、いつのまにか「異常」に入り込んでいく。読み手としては、日常と異界の境目に気づくのが快感だ。

ほぼ改行がない文章なので、ホントに「ふと気づくと異世界」なのだ。

カニやヒガンバナ、ヤモリ、ドジョウ…。それぞれの短編には、作品のシンボル的な動植物が登場し、それらが日常から異常への橋渡しをしているようだ。小山田さんのち密な描写に、動植物へのいとおしさが感じられ、は虫類系でさえ可愛らしく感じるから、不思議だ。

また、女性としての心の「整理のつかなさ」や「割り切れなさ」みたいな感情が織り込まれている作品も多い。夫との、また夫との家族との関係に潜む不穏な感情、空気感に「そうそう…」と共感する女性読者も多いのではないか。

お気に入りの一遍である「名犬」。既婚だが子がない女性が渓流沿いの温泉を訪れて2人の老婆に出会い、不思議な会話に引き込まれていく。モチーフ的な動植物は猟犬。独特の方言で進む会話の中で、妊娠したのは人間…いや犬?!と混乱しながら読みつつ、次第に結婚後も子どもができない主人公の女性の後ろめたさのような心情を、読者は近くに感じていく…。

小山田さんの目には、日常の一部が異常であり、日常そのものが異常な世界。そういう意識で世界を眺めようとすると、私たちの日常のよじれて見える空間がふと、存在しているのに気づくのかもしれない。

↓芥川賞を受賞した「


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小山田浩子さんインタビュー
日常の<異常>捉える
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2018年04月27日

下田美咲著『人生の作戦会議!なんでも解決しちゃう女、王生際ハナコ』(2017年)



情報誌で読者のための「お悩み相談」を担当するライターとしては、他人の「人生の作戦会議」を立ててあげる「王生際ハナコさん」はとても参考になる。

占い師でもなく、心理カウンセラーでもないけど、誰かの人生の問題を解決して相談者の欲しい未来を手に入れるための作戦を立てるハナコさん。彼女の思考はとてもロジカルなのだ。

悩んでいる人の頭の中って、「悩みごと」がぐるぐる回っていて、整理がつかない状態。ハナコさんは論理的にもつれた糸をときほぐし、ミッションを与える。

ケース5の「不倫から抜け出せない女」。相談者の32歳・英恵は会社の上司と1年間も不倫関係にある。彼が冷たい態度を取るようになり、ハナコの元を訪れた。

ハナコは、英恵と不倫相手との関係を聞きだし、相手の男性にとって英恵は「不倫するのに都合がいい女」との目星を付ける。そして、略奪婚をしたいわけではなく、本当は幸せな結婚をしたいとの心の奥底にある願いを英恵自身に認識させる。

そして、2つのミッションを提案する。
「話があると、彼に連絡すること」。そして、「生理がこないと相談すること」。相手の態度を見て、自分が彼からどう思われているかをきちんと把握する…。

たったこれだけで、英恵は次の一歩を踏み出せた。

悩みごとを感情で捉えず、ロジカルに分析して方向性を見出すこと。少しずつでも、それに沿って前に進んでいくこと。当たり前のことを、ハナコさんは明確に示してくれる。それが、話の終わりに必ずある一文の「未来は、いつだって、今日ここからする言動次第だ」は、悩みから一歩踏み出そうとする私たちの背中を押す。

それにしても、相談者をびっくりさせるほど美しくて、どんな悩みも解決してしまうハナコさんはこれまで、どういう人生を送ってきたのだろう…。気になる。

↓モデルやタレントとして芸能界で活躍していた下田美咲さん。最近は執筆活動に力を入れている。
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2018年04月06日

松本清張著『或る「小倉日記」伝』(1952年)

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松本清張初期の短編集『或る「小倉日記」伝』に収録されている6編の物語を読んだとき、なぜ清張はこれほど孤独で偏屈な主人公を書き続けるのかと、つくづく感じた。清張自身にも、そのような人物に深く共感するような側面があったのではないか。

タイトルにもなっている『或る「小倉日記」伝』。小倉に住む主人公・田上耕作は生まれつき身体に障害があり、言葉も不自由だが、頭脳は明晰だ。森鴎外が軍医として同地に赴任していた際に残したといわれる「小倉日記」が見つかっていないことを知り、鴎外の小倉での足跡を明らかにしようとする。

身体のコンプレックスに打ちひしがれながら、母の助けを借りつつコツコツと鴎外の調査を進める耕作。それは遅々として進まない。それでも少しずつ資料が集まっていくのだが、戦争と貧困、そして身体の衰弱が耕作を追い詰めていく…。

父系の指』は、清張と父親をモデルとした物語のようだ。鳥取の旧家から養子に出され、貧しくて学歴も得られなかった父親の凡庸な生きざまを、息子は冷ややかな眼差しで見つめている。やがて息子は、成功して裕福な叔父(父の弟)の一家と出会い、複雑な感情が生まれる…。

菊枕』は、俳人杉田久女をモデルにした短編。名もない美術教師の夫を恥じる気持ちや見栄を強烈に持っているぬいは、俳句に傾倒していくものの恩師から見捨てられ、やがて精神を病んでいく。

断碑』の主人公・卓治もまた、学歴に劣等感を抱きながら、考古学にのめり込む。強烈な自我でアカデミックの権威たちを次々と敵に回し、既成概念を覆そうと論文を発表するものの報われることはない。家族を巻き込みつつ、病に倒れる。

貧困。低学歴。孤独。劣等感。上昇志向。負けずぎらい…。
主人公たちに共通しているこれらのキーワードは、清張の内面にずっと巣食って離れなかったのだろうか。

↓森鴎外に関心が高かった清張
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2018年03月30日

ディケンズ著・中川敏著『クリスマス・キャロル』(1843年)



読者からの「お悩み相談」を担当している。先日は60代の女性から、実の子どもたちに見捨てられた高齢の叔母の世話が重荷になっているという。

文面では、叔母さんは実の子どもたちに相当嫌われているらしい。お腹を痛めたわが子との溝が深いとなると、お年寄りとしてこれほど不幸なことはない。相談者の女性は、孤独な叔母を気の毒で放置できないのだという。

そのような話を聞いて、ディケンズの「クリスマス・キャロル」のスクルージ老人を思い出し、改めて読み直してみた。

商人スクルージは冷酷で金もうけしか興味がない。当然、周囲の人々に嫌われている。クリスマスの朝、甥が食事に誘ってくれても冷たくあしらい、寄付を頼まれれば「貧しい人々を救貧院に入れればいい」と言う。

人として最低レベルのスクルージの前に、ビジネスパートナーだったマーレイの幽霊が現れる。生き方を改めなければ悲惨な末路が待っていると告げ、精霊3人の登場を予告する。

スクルージは精霊3人から自分の過去、現在、未来を見せつけられ、生きなおそうと決心する…。

第2の精霊がスクルージに見せる「現在」には、彼の甥や使用人のボブらの家族が登場し、愛に満ちたクリスマスのシーンを繰り広げる。彼らはスクルージを苦手としつつもどこか憐れみ、愛情を失っていないのが老人にとって救いとなり、改心するきっかけにもなる。

スクルージの最大の弱点は「孤独」だ。孤独が最も人として辛い。スクルージを救ったのは精霊たちではなく、周囲の人々のいたわりや愛情なのだろうか。

↓「花子とアン」で有名になった村岡花子さんの訳も。
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2018年03月23日

一坂太郎著『フカサクを観よ』(2017年)

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深作欣二監督は大好きな映画監督。たくさんあるお気に入り作品の中で、最も心をつかまれたのは「軍旗はためく下に」(1972年公開)だった。

天皇の戦争責任に切り込んだ問題作だったために、右翼が映画館に押し寄せて公開から一週間で打ち切りになったそうだ。

それは、脚本を担当した長田紀生さんが明らかにしていた。上映会に訪れた長田さんは、当時の深作監督は「命がけだった」と話し、「今の映画制作の現場に、命を懸けるつもりで映画を撮るという気概があるのか」と言葉に力を込めた。

フカサクを観よ」は、深作監督が72年の生涯で世に送り出した映画62本のガイド本。深作映画の大ファンである一坂太郎さん(萩博物館高杉晋作室長)は「はじめに」で、こんな風に書いている。

「いま、日本映画はある意味バブル期にあり、おそろしくつまらない映画もあるが、すぐれた作品が多いことも確かだ。しかし、深作監督の作品のように、小さくまとまろうとする世の中を疑い、時に激しく牙を剥くような映画が、どんどん少なくなっている。これは危険なことである。批判精神が薄らぎ、どうも物が言いにくい、言えない社会へと向かっているようだ」。

「牙を剥くような映画」として真っ先に浮かぶのが、「仁義なき戦い」(1973、74年)シリーズだろう。広島であった戦後のやくざ抗争を描きながら、その愚かな争いに国家間の大きな戦争も重ねる。冒頭シーンに登場する原爆のキノコ雲やラストの原爆ドームには、そのメッセージが込められている。

62作品の解説をあらためて読むと、一人の優れたクリエーターの中に国家権力の一方的な「正義」に対する反発心、嫌悪感が貫かれているのを痛感する。忠臣蔵を下敷きとした「赤穂城断絶」(1978年)では、「亡君への忠義」からではなく、「やむにやまれぬ人間としての意地」から仇討する赤穂浪士たちを描こうとした。美談にはしなかったのだ。

残念なのは、深作監督の新たな面を発掘するようなインタビューがないことだ。生前のインタビューをまとめた「映画監督 深作欣二」(山根貞男著)からの引用が多い。監督をよく知るスタッフや俳優もたくさんいるだけに、その人たちの声が欲しかった。

↓深作ファンは必見
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↓関連する蝶子の記事「おしおき部屋」
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2018年03月22日

和田秀樹著『自分を「平気で盛る」人の正体』(2016年)



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ここ数年、「偽造」や「ねつ造」などの言葉が付く事件が目立つ。STAP細胞のねつ造問題、音楽家のゴーストライター事件、イケメンコメンテーターの学歴・経歴詐称、企業の不正会計処理、メーカーの検査結果偽造…。何が本当でうそなのか、まるで信用できない社会になってしまった。

ソーシャルメディア(SNS)でも、自分を「盛る」ことで良く見せようとする自己アピールの強い人たちがわんさと出現してきた…気がする。「能ある鷹は爪を隠す」という美徳は、もはや遠い昔の話だ。

精神科医・和田秀樹さん「自分を「平気で盛る」人の正体」では、「盛りたがる人たち」の正体とそういう人たちがはびこる世の中になった時代背景を説明する。

「盛りたがる人たち」の中には、「演技性パーソナリティ障害」「自己愛パーソナリティ障害」といった病名が付く人たちがいる。

演技性パーソナリティ障害」の特徴は、自分が注目の的になっていない状況では楽しくない▽自己演劇化、芝居がかった態度―など。「自己愛パーソナリティ障害」は自分が重要であるという誇大な感覚▽過度な称賛を求める▽尊大で傲慢な行動―など。病気とまで言えなくても、その傾向がある演技性タイプ、自己愛性タイプの人もいて、世間一般にはいくらでもいる。(ってか、トランプ大統領が疑わしいって思うのは私だけ?)

両タイプとも「称賛欲求が強い」、という特徴があってSNSを見てもうなずける。

「自分を盛る」人たちが多数出没してきた背景には、簡単に自己アピールできるSNSの普及とテレビの存在が挙げられる。テレビの世界では、キャラ立ちしたタレントや文化人がもてはやされる。その風潮が一般的にはびこっているのか、大学受験でさえも自己アピールがうまいAO入試が花盛りだ。

世の中は、ますます「盛る人たち」が有利になる方向に傾いている。だから、「盛る人たち」も「雨後の竹の子」状態になる。

この本を読みながら、亡くなった私の叔母を思い出していた。
叔母はまさしく、「演技性パーソナリティ」の人だった。幼い私は、ささいなことで泣いたり大笑いしたりする叔母が薄気味悪かった。本心が見えないから、自分も心を開けなかった。叔母のような人が増殖していくのか、と思うとちょっと背筋がゾクっとする。
精神科医・和田秀樹さんの著書は多い。
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2018年03月14日

監修・樋口進『心と体を蝕むネット依存から子どもたちをどう守るか』(2018年)



高校2年生の次男が、スマホを手放さない。
先日も食事中に友だちとラインをしているので注意したら、喧嘩になった。自分の子どもが「ネット依存」ではないかと心配する親は多いのではないだろうか。そんな私たち思春期の子を持つ親たちが目を通した方がいい一冊だ。

ネット依存は薬物やアルコール、ギャンブルなどの依存症と同じ心の病。オンラインゲームが依存症のきっかけとなるケースが多いそうだ。1日の大半をパソコンやスマホとともに過ごしていると、「動かない」「寝ない」「食べない」状態になるので健康はもちろん、対人関係もネットの中だけになるなど社会性も失われていく。

最も怖く感じたのが…脳へのダメージ。ネット依存になると、理性的な思考や判断、忍耐などをつかさどる脳の前頭葉の働きや神経細胞の密度が低下してしまう。脳には可塑性もあり、ネット依存から抜け出せば回復するというが、将来がある子どもの脳をできるだけ無傷の状態で守りたいのが本音だ。

大切なのは予防だ。ネットの使用時間や場所など親子でルールをつくる必要がある。
パソコンやスマホが各家庭、個人に普及している中で、子どもにルールを守らせるためには親もある程度、子どもの使用に合わせたスマホの使用を控えるべきだろう。

ネット依存になった若者のための久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の取り組みも詳しく紹介されている。外来では週2日、運動やグループディスカッションを含めたランチ、臨床心理士による訓練などを受ける。また、どうしてもネットがやめられず、問題行動などがある人はネットが全くない環境での入院、キャンプでの治療も受けられる。このような取り組みが、症状を改善に向かわせる。

SNSの普及もあり、大人の私もコミュニケーションなどをネットに頼っている。ネットやスマホのアプリを利用する便利なサービスは山ほど開発され、私たちはますます依存していく傾向にある。オンラインゲームだって、開発する企業が儲ける目的で利用者がハマるようにつくっている。

この社会構造が変わらない限り、ネット依存はなくならない。ネット依存から子どもを遠ざけるためには、リアルな生活をいかに充実させるかが大切だと感じる。スポーツや芸術、モノづくりなど親子でできることはいろいろある。

↓こんな本も。



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2018年02月27日

高橋真琴著『高橋真琴の少女ぬりえ 世界のおひめさま』(2006年)



幼いころ読んでいた雑誌の挿絵や付録には、イラストレーター高橋真琴さんが描いたお姫さまであふれていた。美し過ぎるお姫さまを飽きずに見とれていたものだ。ぬり絵や着せ替え人形に飽き足らず、高橋さんの絵をまねして目が星でいっぱいのお姫さまを描き続けた。

たまたま立ち寄ったデパートで「高橋真琴展」に遭遇し、吸い込まれるように入って思わず「世界のおひめさま」のぬり絵を購入。有名なおひめさまたち―シンデレラ白雪姫ねむり姫人魚姫親指姫のお話付きイラストを、一枚ずつ味わうように見ているうちに、ほろ苦い思いも湧き上がってきた。

若く美しいお姫さまは、年を取らない。
私はお姫さまとは違い、どんどん年を取るし、どんどん老けていく。

お姫さまと、横にいるやっぱり目がキラピカの王子さまは結婚し、「いつまでもいつまでも幸せに暮らしました」となる。(※注意 人魚姫だけは別だけど)

私の元夫はブサイクだったし、大ゲンカして別れた。
そして私はふたりの息子を苦労して育てながら、何とか日々を過ごしている。

幼いころ、高橋さんが描くおひめさまの華麗な世界に何の疑惑も感じなかった(そりゃ、当たり前だ)。お姫さまがいつかシワシワのおばあちゃんになり、王子さまもハゲ頭になって介護が必要になるのになぁ、とかお姫さまは王子さまとの結婚生活にいつかは飽きて、愛も冷めていくんだなぁ…なんて想像もしなかった。

お姫さまは生きていない。
私は生きている。
その差を、つくづくと味わう。

高橋真琴さんの画集がほしい。
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2018年02月20日

安藤ゆき著『町田くんの世界』(2015年〜)

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久しぶりに少女漫画を読んだら、とても新鮮だった。
10代に読んだ作品の価値観から見事に転換していて面白かった。

安藤ゆきさんの「町田くんの世界」(1〜6巻)の町田くんは、これまでの少女漫画の既成概念にない新しいヒーロー像だ。

町田くんは高校1年生。弟や妹が5人もいる。容貌も格好よくないし、不器用で勉強も中の「下」。スポーツだってたいしてできない。けれども、町田くんは天然の「人たらし」。同級生だけでなく、子どももお年寄りも「胸キュン」にさせる。

「人が好き」な町田くんはどんな人にも優劣を付けず、フラットに接して受け入れる。婚活に敗れた幼稚園時代の先生のために、新郎役になって一緒にウエディング写真を撮ってあげたり、孤独な同級生女子の猪原さんに寄り添ってあげたり。桁外れに優しい。

登場人物の中では、イケメンモデルの同級生氷室くんが少女漫画の王道を行く「王子さま」的なキャラ。モテ男で町田くんとは対照的に描かれているが、その氷室くんも町田くんを大好きになる。

家族に十分愛されているためか、町田くんは他人に愛を求めないし、人に好かれようとして何かを一生懸命するわけではない。言うべきことは、きちんと言う。自分が不器用でも、コンプレックスに捉えていない。

鈍感なところが玉に瑕(きず)。猪原さんは町田くんに恋心を抱いているが、町田くんはちっとも気付かない。

町田くんがいる「世界」は居心地がよさそうだ。町田くんこそ、現代女性の理想の男子…なのかもしれない。

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2018年02月16日

フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳『コリーニ事件』(2013年)



ドイツ人作家シーラッハの作品をよく読むようになった。国内でシーラッハ作品の朗読劇や演劇が上演されるようになり、緊張感のある硬質な作風に魅かれて原作に触れるようになったのだ。最近では、観客が有罪か無罪かを決める『テロ』という作品を橋爪功さんの朗読劇で観て、その面白さにすっかりハマった。

シーラッハの初長編作品が「コリーニ事件」。この小説が社会的な反響を呼び、ドイツの政治と法律を動かした話題作だ。まず、知っておかねばならないのはシーラッハがナチ党の中心人物だったパルドゥール・フォン・シーラッハの孫だったという事実。優秀な弁護士のシーラッハは、この作品の中でナチスを糾弾する。

新米弁護士ライネンは、ドイツ経済界の重鎮を殺したイタリア人コリーニの国選弁護人を引き受けた。だが、殺されたハンス・マイヤーは親友の祖父で世話になった人物だったために、裁判を引き受けるかどうか悩む。コリーニは殺人の動機について口を閉ざす。法廷では、被害者遺族から依頼された公訴参加代理人の辣腕弁護人マッティンガーと争うことになる。

ライネンはコリーニとマイヤーの過去を調べていくうちに、ドイツの暗い歴史が関係しているのを知る。ナチス親衛隊大隊の隊長だったマイヤーは、テロへの報復としてイタリア人パルチザン(民衆によって組織された非正規軍)の処刑を指揮し、コリーニの父はその犠牲になっていた。

コリーニは戦後、マイヤーを告発したが、時効で捜査は打ち切りとなった。戦争犯罪人に有利になる法律が発布され、マイヤーは無罪放免となったのだ…。

この事実を前に、法廷で意見を闘わせるライネンとマッティンガー。「私は法を信じている。きみは社会を信じている。最後にどちらに軍配が上がるか、見てみようじゃないか」というマッティンガーの言葉が端的に、ふたりの主張を表している。

だが、法廷は意外な展開によってあっけなく幕を閉じる。コリーニがライネンに告げる言葉に胸を突かれる。「おれたちが勝つことはない。おれの国に、死者は復讐を望まない。望むのは生者だけ、という言葉がある」。

法の在り方と社会のモラル、人間の不可解さ…が問われる法廷劇。コリーニの結末は、人が人を裁くことの限界を私に考えさせてくれる。
シーラッハ作品の中でも衝撃の作品。
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テロ [ フェルディナント・フォン・シーラッハ ]
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