2017年12月27日

ドリアン助川著「あん」(2013年)

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あん [ ドリアン助川 ]
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ハンセン病の父と幼い息子がお遍路姿で放浪する映画「砂の器」(1974年)をふと、思い出した。映画が公開された時代ならまだしも、ハンセン病患者に対する偏見と差別は根強く続いている。「らい予防法」が廃止されて20年たった今でも、元患者に対する風当たりは強く、彼らの苦悩は命ある限りなくならない。

ドリアン助川さんの物語はそこにだけに強く焦点を絞っていないところが、いい。服役経験があるどら焼き屋の主人・千太郎と元患者の徳江との心の交流とふたりを結び付けた「あん」に光を当て、優しい読み心地に仕立てている。

桜並木に近い千太郎の店「どら春」に、働きたいという76歳の徳江が現れる。高齢で指が曲がった彼女を敬遠していた千太郎は、徳江が炊いた美味しいあんを食べて雇う気になる。徳江が丁寧に炊くあんのおかげで、千太郎の店は繁盛する。

それもつかの間、千太郎の店から客足が途絶える。徳江が過去に患っていたハンセン病のためだった…。

徳江が炊くあんづくりの描写が素敵だ。小豆を大切に扱い、あくを抜く作業に手を抜かない。読むだけで、あんの深い味わいを想像してしまう。あんに愛情を注ぐ徳江のいじらしい姿と対照的に、ハンセン病を嫌悪して「どら春」から離れていく客たちの身勝手さが際立つ。

物語の後半は、ハンセン病療養所に暮らす徳江の想いが明かされ、千太郎は徳江のあんを受け継いでいこうとする。徳江は苦しみの中で、「この世に生まれてきた意味」を考えていた。
「私たちはこの世を観るために、聞くために生まれてきた。この世はただそれだけを望んでいた」。「私たちが感じた世界は、そこに生まれる―だから、生きる価値はあるのだ」と。

千太郎がつくろうとしていた「塩どら焼き」は完成したのか、自分の店を持てたのか。それは読者の想像に委ねられ、そこがこの物語の良さのような気がする。

読後、小豆を買ってきてあんを炊いてみた。あくがほんの少し残り、渋味が感じられる。人生と同じだなと苦笑する。
河瀬直美監督で2015年に映画化
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posted by 蝶子さん at 13:44| 広島 ☁| Comment(0) | た行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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